前回の続きです。
化学系分野の実施例の記載で注意すべきことは?
1.発明の目的に沿った実験データを記載する。
2.発明の優位性が訴求された記載様式とする。
3.第三者が再試験可能な記載様式とする。
1.発明の目的に沿った実験データを記載する。
当たり前のことですが、実施例は、明細書に記載の発明の目的(課題)が達成されたことが明確な実験データを用います。
発明の目的に沿った効果が裏付けられた実験データを用います。
話がずれますが、私は弁理士になる前は、製薬企業で約10年間、薬の研究開発に従事していました。研究開発業務に従事していた際に、尊敬する上司から口をすっぱくして言われていたことがあります。それは、「実験の目的を常に考えろ」です。
あんなこともこんなことも考えられるから一応実験しておこう、はダメ。いろいろ考えつくことはいいこでともあるように思われるが、それは実験者の自己満足に過ぎない。我々は営利を追求する集団であるから最小の労力で最大の成果を生み出す。そのためには、目的が一番大事である。目的が達成できる(効果が裏付けられる)最小限の実験系を組め。
このような趣旨をよく言われ、なるほどなーと思っていました。
実験と同様に、特許明細書においても発明の目的は重要です。発明の目的が課題に繋がり、その課題が達成できる最小限の構成(先行技術との比較要)を独立請求項1に記載する必要があるからです。
なお、独立請求項1の構成は、課題をすべて解決する構成をとる必要があります。このため、多くの課題を記載するのは推奨できません。発明者様は課題に多くのことを列挙したがる傾向にありますが(私も研究畑出身であるためこの気持ちはすごく分かります)、弁理士はすべて鵜呑みにするのではなく、冷静に見る必要があります。課題の記載により侵害訴訟などで余計な争いが生じる場合もあります。この点は、また別の記事で記載したいと思います。
具体的には?
発明者に実験データの提示、選択を全て任せるのではなく、弁理士が目的、課題を考慮して不要な実験データは記載から外します。ここで不要な実験データとは、目的に沿っていない、目的に関連性がないデータです。
そして、独立請求項の構成を全て含む実験データを実施例とし、含まないものを比較例とします。また、従属請求項の構成を考慮し、その構成が実施例により充足されているか否かを確認します。
次回に、2及び3について記載します。
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