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特許出願の目的は、登録とすべきではない


発明者・経営者の皆様、特許出願の目的は、登録だと考えていらっしゃるのではないでしょうか?


これは正しくありません。特許出願の目的(ゴール)は、登録後の権利行使に設定するべきです。


登録ではなく、権利行使を目的とすることにより、強い権利を有する特許権を取得せざるを得なくなります。強い権利を有していなければ他人に権利行使できないからです。


登録すること自体は弁理士に頼めば容易にできます。弁理士は、請求項の範囲(権利範囲)を狭く記載すれば登録されることを知っています。


狭く記載するだけで登録できるため、検討する時間が減って効率的です。さらに登録されることで成功報酬を得ることができますし、登録査定率が例えば90%以上等高くすることができるために知的財産について詳しくない方にとっては腕の良い弁理士と誤認させることが可能です。これにより更に集客できます。つまり、登録を目的とした権利範囲の狭い特許権を短い期間で数多く取得することは、弁理士にとっては利益率の高い、最も効率良いビジネスモデルとなります。


また、弁理士だけでなく、発明者にとっても、登録をゴールとした特許出願は魅力的です。とにかく登録されれば、自身の発明が認められ誇らしい気持ちになります。また社内での評価も上がるでしょう。


登録を目的とすることで発明者・弁理士双方にメリットがあります。このため我が国では、権利範囲の狭い、弱い特許権が量産されてきました。


ここで発明者・経営者の皆様に振り返って考えて頂きたいのは、そもそも何故特許権を取得しようと考えたかです。特許権を取得しようと考えたのは、技術・事業を守りたいと考えたからではないでしょうか?この場合、登録を目的とした狭い特許権で技術・事業を守れるでしょうか?


狭い特許権では技術・事業が守れません。実際に経営者の方は、自社の特許で権利行使を行った特許、ライセンス料を得ている特許、を集計してみてください。おそらく、ほとんどないと思います。


狭い特許権を数多く得ることは、国力の低下も招きます。権利範囲が狭いので権利からは外しつつ、特許製品と非常によく似た製品を製造することが容易となります。実際、他国は日本の特許文献を非常に多くチェックしています(海外からの特許庁データベースのアクセス数が非常に多い)。


強い特許権を得るためには、発明者・弁理士・経営者がチームとなり、対処していく必要があると考えます。そのための前提として、発明者・経営者の皆様には、登録が目的ではない、という意識改革が必要だと考えます。発明者・経営者の意識が変われば、安易に権利範囲を狭くせず、権利行使できる強い特許権を発明者・経営者のために取得しようとする弁理士がもっと増えると考えます。これにより、特許法制度の趣旨である「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与する」ことが達成できる、よいサイクルができると考えます。


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