【2027年1月施行】中国商標法が初の全面改正 ― 日本の中小企業・知財部がいま確認しておきたいこと
2026年6月26日、中国で商標法の改正が成立し、2027年1月1日から施行されます。1983年の施行以来、初めての「全面改正」と言われる大きな見直しです。
「中国で商売をしていないから関係ない」と思われる方も多いかもしれません。しかし、越境ECでの販売、中国の工場への製造委託、将来の海外展開を考えている方にとっては、決して他人事ではありません。本記事では、改正のポイントをできるだけわかりやすく整理し、立場ごとに「いまやっておきたいこと」をご紹介します。
なぜいま中国商標法なのか
中国は世界最大級の商標大国です。2025年末時点で、中国本土の有効な登録商標は4,980万件を超えていると報告されています。
その一方で、他人のブランドを先回りして出願する「抜け駆け出願(冒認出願)」や、使う予定のない商標を大量に抱え込む行為が長年問題になってきました。日本の地名や企業名、人気商品の名前が中国で第三者に出願されてしまったというニュースを、目にされた方も多いと思います。
今回の改正は、こうした問題に対処し、「登録を取ること」よりも「実際に使うこと」「誠実に使うこと」を重視する方向へ舵を切ったものといえます。日本企業にとっては、守りやすくなる面と、注意が必要になる面の両方があります。
なお、中国の商標制度は日本と同じく「先に出願した者が優先される」先願主義が基本で、この枠組み自体は今回も維持されています。中国で使う可能性があるブランドは、早めに中国でも出願しておくという基本は変わりません。
改正のポイント ― 押さえておきたい6つの変化
改正法は条文数が73条から87条に増える大きな改正ですが、日本の事業者に関係が深いのは主に次の6点です。
改正点 | 何が変わるか | 日本の事業者への影響 |
1. 異議申立期間の短縮 | 公告から3か月 → 2か月に短縮 | 他人の出願を見つけて対抗できる時間が短くなる |
2. 悪意の出願への規制強化 | 使用意思がなく、通常の事業の必要を明らかに超える出願は登録しない。一定の悪意ある出願によって悪影響を生じさせた場合には、警告に加え、10万元以下の過料が科されることがある | 抜け駆け出願への対抗手段が増える |
3. 職権による不使用取消 | 正当な理由なく3年連続で使われていない登録を、当局が職権で取り消せるようになる | 使っていない自社の登録も取消のリスク |
4. 馳名(著名)商標の保護拡大 | 中国で未登録でも、著名商標なら区分を超えて保護され得る | 著名ブランドには追い風 |
5. 誤認を生じる使用への規制 | 登録商標を、公衆を誤認させる方法で使用した場合には、期限を定めた是正命令や過料の対象となり、期限内に是正しなければ登録が取り消される | 包装・広告・EC掲載の表示も要注意 |
6. 動き商標の追加 | アニメーションロゴなど「動的な標識」が登録対象に明記 | デジタルブランドの保護手段が増える |
ポイント解説(初心者の方向け)
異議申立期間とは? 中国では、審査を通過した商標がいったん「公告」され、その間に第三者が「その登録はおかしい」と申し立てることができます。この期間が3か月から2か月に縮まります。期間を過ぎると、原則として登録後の無効宣告請求などによる対応を検討することになります。
悪意の出願とは? 典型例は、日本で人気の商品名を、関係のない第三者が中国で先に出願して、後から高値での買い取りを求めるようなケースです。改正法は、こうした出願を拒絶しやすくし、さらに出願人や、事情を知りながら手続を引き受けた代理人にも責任を問える仕組みを設けています。
「使っていない商標」が取り消される? これまでも、3年使っていない登録は第三者の請求で取り消すことができました。改正後は、当局が自ら取り消すこともできるようになります。中国で「念のため」に登録したまま使っていない商標をお持ちの方は、状況を確認しておくと安心です。
見送られた改正案もあります
審議の過程では、出願時の使用意思の宣言義務、登録後の定期的な使用報告、悪意の登録を正当な権利者へ強制的に移転する制度なども検討されましたが、最終的な改正法には盛り込まれなかったと報告されています。報道や解説記事の中には草案段階の内容のものもあるため、情報の時点にご注意ください。
中小企業・個人事業主の皆様へ ― まず確認したい4つのこと
中国に拠点がなくても、次のどれかに当てはまる方は一度確認されることをおすすめします。
越境EC(中国向けの通販サイトやモール)で商品を販売している、または検討している
中国の工場に製造を委託している
商品名やロゴがSNSなどを通じて海外でも知られ始めている
インバウンド(訪日中国人のお客様)向けの商品・サービスがある
1. 自分のブランドが中国で出願されていないか調べる
中国の商標データベースは、日本からもインターネットで検索できます。ご自身の商品名やロゴが、第三者によって出願・登録されていないかを確認しましょう。中国語表記(漢字・ピンイン)でも調べることがポイントです。
2. 中国でも使う可能性があるなら、早めに出願する
改正後も「先に出願した者が優先」という基本は変わりません。悪意の出願への対抗手段は増えますが、争うには時間も費用もかかります。自ら早期に出願しておくことは、後から争う負担を抑えるための有効な予防策です。
3. 「登録して終わり」にしない
改正法では、使われていない商標を当局が職権で取り消せるようになります。中国で登録した商標は、実際に使用し、その証拠(請求書、出荷記録、EC掲載画面など)を残しておくことが大切です。
4. 表示の仕方にも気を配る
商品の品質・原材料・産地などを誤認させる商標の使い方は、規制の対象になります。たとえば、日本製でない商品に「日本製」を連想させる名称や表示を使うといったケースは注意が必要です。
企業の知財ご担当者様へ ― 施行までに見直したい実務
施行日(2027年1月1日)までに、社内体制と中国ポートフォリオを点検しておくことをおすすめします。
ウォッチングと社内フローの期間設定を見直す:異議申立期間が2か月になるため、ウォッチ通知の確認、異議の要否判断、現地代理人への指示までの社内スケジュールを短縮する。社内規程に「3か月」と書かれている場合は改訂が必要です。
中国登録の使用状況を棚卸しする:職権による不使用取消に備え、登録ごとに使用の有無と使用証拠の保管状況を確認する。
防衛的出願の方針を整理する:改正法は合理的な防衛出願まで禁じるものではないとされますが、「通常の事業上の必要を明らかに超える」出願との境界は、今後の実施規則や審査基準で明確化される見込みです。出願の範囲と事業計画の対応関係を説明できるようにしておくと安心です。
表示・広告の確認範囲を広げる:誤認を生じる使用への規制を踏まえ、包装、広告、EC掲載、ライブ配信、SNS上での商標の使われ方も確認対象に含める。
著名商標・動き商標の活用を検討する:中国未登録の著名商標にも非類似の商品・役務にも保護保護が及び得るようになるため、抜け駆け出願への対応で根拠となり得ます。アプリの起動画面やアニメーションロゴなど、動的なブランド要素の出願も選択肢になります。
なお、実施規則や審査指南(審査基準)の改訂内容は、本稿執筆時点ではまだ全体が明らかになっていません。具体的な運用は、今後の公表を待って判断する必要があります。
まとめ
今回の中国商標法の全面改正は、「取っただけの商標」から「正しく使われている商標」を守る制度への転換といえます。抜け駆け出願に悩まされてきた日本の事業者にとっては追い風となる一方、異議申立期間の短縮や不使用商標の職権取消など、手続面では今まで以上にスピードと管理が求められます。
施行は2027年1月1日です。中国での販売や製造委託をされている方、これから海外展開を考えている方は、この機会にご自身のブランドの状況を確認してみてください。
樋口特許商標事務所からのご案内
当事務所では、北京の現地代理人と連携し、中国での商標出願・調査をお手伝いしています。「自分の商品名が中国で出願されていないか調べたい」「中国でも商標を取るべきか相談したい」といったご相談も歓迎です。初回のご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年10月時点で公表されている情報をもとにした一般的な解説であり、個別の案件についての法的助言ではありません。具体的な対応は、専門家にご相談ください。
参考資料
CNIPA「中華人民共和国商標法(2026年改正)」
JETRO「中華人民共和国商標法(2026年改正)」日本語仮訳等の掲載案内

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