【2026年最新】営業秘密侵害の検挙事件数が前年比約73%増 ― 中小企業が今日からできる「秘密情報」の守り方
「うちには特許になるような技術はないから、知財は関係ない」と思っていませんか?
実は、特許を取っていなくても、顧客リスト、製造ノウハウ、配合レシピ、図面、見積りの単価表といった社内の情報は、きちんと管理していれば「営業秘密」として法律で守られます。逆に、管理が不十分だと、社員が持ち出して競合他社で使っても、法的に争うことが難しくなってしまいます。
2026年6月に政府が決定した「知的財産推進計画2026」でも、営業秘密の漏えい防止は重要課題の一つとされました。本記事では、最新の状況と、中小企業でもすぐに取り組める対策をわかりやすくご紹介します。
数字で見る ― いま何が起きているのか
警察庁の公表資料によると、営業秘密侵害事件の警察への相談受理件数は3年連続で70件を超え、検挙事件数は2025年に38件と、前年から73%増加しました。背景として、転職が一般的になったこと(雇用の流動化)や、企業の海外展開の拡大が挙げられています。
また、情報処理推進機構(IPA)が2025年に公表した「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」では、漏えいルートとして、外部からのサイバー攻撃等による社内ネットワークへの侵入が36.6%で最多でした。一方、現職従業員のルール不徹底による漏えいは32.6%、金銭目的等の具体的な動機による漏えいは31.5%、中途退職者による漏えいは17.8%でした(複数回答)。外部からの攻撃への備えと、従業員・退職者を通じた漏えいへの備えの両方が重要です。
つまり、営業秘密の漏えいは、サイバー攻撃のような外部からの攻撃よりも、社内の人、とくに退職する人を通じて起きやすいのが実態です。
そもそも「営業秘密」とは? ― 守られるための3つの条件
不正競争防止法では、次の3つの条件をすべて満たす情報を「営業秘密」として保護しています。
条件 | 意味 | 具体例 |
1. 秘密管理性 | 秘密として管理されていること | 「社外秘」の表示、アクセス制限、誓約書 |
2. 有用性 | 事業に役立つ情報であること | 製造ノウハウ、顧客リスト、原価情報 |
3. 非公知性 | 一般に知られていないこと | 公開資料やネットで入手できない情報 |
実際の裁判で問題になりやすいのは、1つ目の「秘密管理性」です。どれだけ価値のある情報でも、「社外秘」であることが社員にわからない状態だったりすると、「秘密として管理されていなかった」と判断され、保護を受けられないおそれがあります。共有フォルダに保存する場合も、秘密情報を一般情報と区別し、秘密として扱うべき情報の範囲を従業員が認識できるようにしておくことが重要です。
言い換えれば、営業秘密は「持っているだけ」では守られず、「守っていることが社員にわかる状態」にしておくことが大切です。
特許にするか、秘密にするか
技術やノウハウを守る方法には、大きく分けて「特許を取る」と「秘密にしておく」の2つがあります。特許は権利が強い代わりに内容が公開され、期間も原則出願から20年までです。一方、営業秘密は管理を続ける限り期間の制限はありませんが、他社が独自に同じ技術を開発した場合には止められません。
製品の分析や分解でわかる技術は特許出願を、外から把握されにくい製造条件などは秘匿化を検討するなど、技術の性質に応じた使い分けが重要です。
中小企業の皆様へ ― 今日からできる6つの対策
大がかりなシステムを導入しなくても、次のような対策から始めることができます。
1. 守るべき情報を洗い出す
まずは「何が会社にとって大事な情報か」を整理しましょう。顧客リスト、製造条件、配合、図面、取引条件などをリストにし、重要度に応じて「極秘」「社外秘」などに分けます。すべてを秘密にしようとすると管理が続かないため、本当に守るべきものに絞るのがコツです。
2. 「秘密であること」を見える化する
書類やファイルに「社外秘」「Confidential」と表示し、保存場所にパスワードやアクセス権限を設定します。紙の資料は鍵のかかる場所に保管します。
3. 入社時・在職中に誓約書を取る
就業規則に秘密保持の規定を設け、入社時に秘密保持の誓約書を提出してもらいます。重要なプロジェクトに関わる社員には、個別の誓約書を取ることも有効です。
4. 退職時の手続を決めておく
退職時は、秘密情報の持出しを防ぐための重要な管理の機会です。
退職時に、秘密情報を持ち出していないことの誓約書を取る
貸与したパソコンやUSBメモリ、書類を確実に返却してもらう
社内システムやクラウドのアカウントを速やかに停止する
退職前の一定期間のファイルのダウンロードやメール送信の記録を確認できるようにしておく
5. 取引先とは秘密保持契約(NDA)を結ぶ
共同開発や製造委託などで社外に情報を渡すときは、事前に秘密保持契約を結び、渡した情報の範囲と使い道を明確にしておきましょう。
6. 生成AIやクラウドの利用ルールを決める
社員が業務で生成AIやクラウドサービスを使う際に、どの情報なら入力・保存してよいかのルールを決めておきます。便利なツールほど、気づかないうちに社外へ情報が出ていくおそれがあります。
企業の知財ご担当者様へ ― 体制を点検するポイント
営業秘密の管理規程と運用が一致しているか:規程上は「極秘」とされている情報が、実際には広く共有されていないかを確認する。
秘匿化した技術の「先使用」の証拠を残しているか:他社の特許出願より前から、独自に開発した発明を日本国内で事業として実施し、又はその準備をしていたことなどを示せるよう、技術内容や実施・準備の時期を裏付ける資料を保管しておく。
漏えいが疑われたときの初動手順があるか:アクセス記録の保全、関係部署の連絡体制、弁護士への相談のタイミングなどを事前に決めておく。
国の動向をフォローしているか:知的財産推進計画2026では、不正競争防止法の営業秘密に関するルールについて、被害者の救済や国外への漏えい防止の観点から、制度の在り方を検討するとされています。今後の改正の動きに注意が必要です。
経済産業省の「営業秘密管理指針」や「秘密情報の保護ハンドブック」は、社内体制を見直す際の参考になります。
まとめ
営業秘密は、特許を持たない中小企業にとっても身近で重要な知的財産です。しかし、法律で守られるためには「秘密として管理していること」が前提になります。
漏えいの多くは社内の人、とくに退職者を通じて起きています。サイバー攻撃への対策に加え、従業員・退職者を通じた漏えいへの対策も欠かせません。まずは守るべき情報の洗い出しと、退職時の手続の整備から始めてみてはいかがでしょうか。
樋口特許商標事務所からのご案内
当事務所では、「どの技術を特許にして、どの情報を秘密として守るか」の整理など、営業秘密を含む知財戦略のご相談を承っています。漏えいが疑われる場合の法的対応については、必要に応じて弁護士への相談をご案内いたします。初回のご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年10月時点で公表されている情報をもとにした一般的な解説であり、個別の案件についての法的助言ではありません。具体的な対応は、専門家にご相談ください。

コメント